夏の読書感想文

自閉症論の原点―定型発達者との分断線を超える

自閉症論の原点―定型発達者との分断線を超える

自閉症についてある程度は予備知識を持っているつもりでしたが、第一部「自閉症の精神政治学」はともかく、第二部「自閉症精神現象学」は内容を読み取るのに少々骨が折れました。
さて、第一部で発達障害者支援法や特別支援教育に言及しているところは、私にとって新鮮な切り口でした。

「専門家」グループは、障害の早期発見と早期療育が少年事件を未然に防ぐかのごとき幻影を振りまきます。同時に、「専門家」に導かれた学校教育が、新自由主義社会への適応をもたらすという幻影も、振りまくことになるのです。

発達支援法における定義は、前述した区分*1を十分に吟味することなく混同し、「低年齢において発現する」「脳機能の障害」という、仮説でしかない基準を根拠として、発達障害の範囲を無制限に拡大することを許す内容になっているのです。

本来は障害と診断し得ない子どもまでをも対象に選定しているのですから、特別支援教育において何らかの特異的な教育方法が開発提供されることはありえません。このため、ラベリングのみが、子どもたちの上に残ることになります。

もろ手を挙げて賛同はしませんが、なるほど、そういう捉え方もあるな、という感じです。
今、特別支援学校や小中学校で『特別支援教育』の充実に向けて尽力されている先生方も多いことでしょう。私もその一人ですが。そこに“特別支援教育への疑念・懸念”はあるはずもなく。そういうタイミングでこういう説に触れると、なかなか微妙なものがあるわけで。

*1:WHOによるICD-10における「心理的発達の障害」と「小児期および青年期に通常発症する行動及び情緒の障害」