生徒に体罰しそうになりました

体罰しそうになった生徒は通常学級の2年生です。
1人目は選択授業の最中に隣の教室を抜け出し、霞が担当している教室にちょっかいを出してきたA男。胸ぐらをつかんで引き回しているうちに、彼のYシャツのボタンがはじけ跳びました。
2人目はB男。霞とA男が話が終わり、霞が特殊学級の教室へ向かおうとした時、背後から「ハゲ!」と大声を出した十数人の中にいて、学年でも頭を悩ませている生徒の一人です。問い詰めても「え?俺じゃないよ。さぁ、誰が言ったんでしょうねぇ〜?」というふてぶてしい態度に、霞はキレました。
3人目はC男。霞とB男が話をしていると、廊下の向こうで「ハゲ!」と叫んだのでした。C男のもとへ歩み寄り、「大人をからかうとは、いい度胸だな。文句があるなら隠れずに、俺に面と向かって言え」と詰め寄ると「へ?あんたのことじゃねぇよ。あんたがいたなんて知らなかったねぇ。生徒かと思ったよ。」としらを切りました。
この学年が入学してから1年2ヶ月。毎日のように背後や物陰から「ハゲ!」とからかわれ続け、胃がキリキリする思いに絶え続けてきましたが、いよいよがまんの限界を越えそうです。右の拳で左あごを殴りかけたところを、学年主任と教頭が止めに入ってくれました。
厳密には“体罰”ではありませんが、教員として不適切な行動だったということで、夜になってそれぞれの家庭へ電話を入れました。やや驚いた家もありましたが、最終的には「わかりました」と言ってもらえました。中には「これからもご指導よろしくお願いします」と言う母親までいました。
20年前、『生徒を殴ってしまった』という理由で自殺してしまった先輩を思い出しました。
「26歳も年下の子供相手に、俺は何でこんなに熱くなっているんだろう…あんな人間相手に熱くなるだけ、もったいないじゃないか。」
駐車場に向かう途中、細い月を見上げながら、後悔というよりも虚脱感に襲われつつ、家路に着きました。