便利になってるはずなのに

今日は授業参観。土曜日なので給食はありません。通常の学級の生徒たちは弁当を持ってきていますが、特殊学級には『調理実習』の絶好のチャンス!ただし、今日は教員採用試験と重なっており、調理実習が大得意な●●先生が学校に来ません。
ということで、今回の調理実習のテーマは「自分一人で食べられるお昼ごはん!」つまり、生徒自身が誰の手助けも受けずに食べられるお昼ごはんを考えるというもの。材料費の制限は300円、教員は完全ノータッチです。
障害の軽いAさんはお米を持ってきて炊飯器で炊き、卵・たまねぎを買ってきて卵丼を作りました。障害の重いBくんは、スーパーの中を見て回って“自分の食べたいもの”を選ぶのが課題。結局太巻き寿司を買いました。カップラーメンを買う子、チルドのハンバーグを買う子、みんなそれなりに工夫して材料を買い、自分でお湯を沸かして食べることができました。
今回一番苦労したのはHさん。彼女は日常会話は達者なのですが、生活経験が乏しく、数の概念も十分に発達していません。10円と100円、どちらがたくさんなのか、216円の品物が300円で買えるのか、判断することができません。そんな彼女、案の定、自分が食べたいものとして考えていたカップラーメンと卵スープと値段を確かめないままレジに持ってきました。レジのお姉さんに「438円です。」と言われ、呆然。他のお客さんの迷惑になりますので、ここだけは霞が近寄ってもう一度買いなおすように指示を出しました。
売り場に戻ったHさんでしたが、どの商品が買えるのか分からないまま、立ち尽くしていました。すると、商品整理をしていたおばさん(失礼!)がそばに来て、何やらHさんに説明を始めました。『何が欲しいの?』『これは○○円よ。』そんな会話をしているようでした。霞はその様子を10mほど離れたところから見ていたのですが、ふと教員になりたてのころを思い出していました。
当時はコンビニが今ほど多くなく、地元の“雑貨屋さん”にいろいろと買い物に行っていました。店にはいろいろな商品が並んでいますが、特殊学級の生徒たちがまず初めにすることは「おばちゃん!○○ちょうだい!」とあいさつすることでした。店員さんに自分が欲しいものと、持って来たお金の額を伝えれば、種類や分量はお店の人が見てくれて、ちゃんと買い物ができたのです。電車に乗ってどこかへ行くにしても、窓口の駅員さんに行き先を伝え、財布を丸ごと差し出せばちゃんと切符が買えました。銀行や郵便局でお金を預けたり下ろしたりするにしても、通帳とはんこを係りの人に預ければ、ちゃんと用が足せました。
今でもお店では店員さんに相談することはできますが、実際にそうしている人を見かけることはまずありません。行き先が分かるだけでは電車の切符は買えません。*1銀行員に通帳とはんこを預けることは、決まりでできなくなっているようです。*2特殊学級にはいませんが)目の不自由な人に、駅や銀行の機械のあのタッチパネルを使えというのは酷です。世の中は便利になっているはずなのに、どうしてこんなに“自分でやる”ことが増えてしまったんだろう…。
依然として立ち尽くしているHさんを遠くに見ながら、そんなことを考えていました。

*1:サッカー部で練習試合に行くときでさえ、連中は運賃の書いてある路線図を見る前に「先生!いくら!」と聞いてくるもんなぁ…

*2:行員は伝票の書き方、はんこを押す場所を教えることはできますが、あくまで本人が出金伝票を書き、判を押さなければいけないそうです。